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最高裁判所第一小法廷 昭和53年(オ)1060号 判決

上告人

吉田武夫

外六名

右七名訴訟代理人

宇佐美明夫

外三名

被上告人

吉田一二三

右訴訟代理人

山田紘一郎

宮崎誠

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人宇佐美明夫、同大田直哉、同吉岡一彦、同今泉純一の上告理由第一点、第二点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第三点について

未登記の建物について書面によらないで贈与契約がされた場合に、贈与者の意思に基づき直接、受贈者名義に保存登記が経由されたときには、贈与契約の履行が終つたものとして右契約を取り消すことができないものと解すべく、この場合を所論のように贈与者が受贈者に所有権移転登記をした場合と異別に解すべき理由はない。右と同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(本山亨 藤崎萬里 中村治朗)

上告代理人宇佐美明夫、同大田直哉、同吉岡一彦、同今泉純一の上告理由

一、第一点、第二点〈省略〉

三、第三点 原判決は民法第五五〇条但書の適用解釈を誤つたか理由不備の違法がある。

1 本件建物(二)、(三)の贈与につき、原判決は兼太郎の書面によらない贈与契約を前提とし、右建物はいづれも兼太郎の意思に基づく被上告人名義の表示登記及び保存登記がなされているから、民法第五五〇条但書の履行が終つた場合に該当する旨判示する。

2 しかしながら、右の表示登記、保存登記は、乙第九号証の一、二、七、九、乙第一〇号証の一、二、七、九、の各書類により、被上告人が自らが建築主であり自らが右建物の所有権を原始取得したものとして、被上告人の一方的申請によつてなされたものであつて、何ら贈与者たる兼太郎の協力によつたものではないから、右保存登記がなされたことをもつて兼太郎による任意の履行行為とすることはできない。

この点において原判決は民法第五五〇条但書の解釈を誤つたものである。

3 もつとも原判決は理由二1(6)で「……兼太郎は控訴人(被上告人)に対しこれらの書類をすみやかに追完して本件不動産を控訴人(被上告人)名義にするよう命じ……」との事実を認定しており、兼太郎の右の指示により本件保存登記がなされたという趣旨にとれないではないが、このような登記に関する指示がなされたことについては、全記録を精査するも、これが証拠資料を発見することができず、右認定は証拠に基づかない違法があり、仮りに原判決が右事実を弁論の全趣旨から認定したものであるならば、右事実の存否は本件建物(二)、(三)の贈与の成否を決するに唯一と言つても過言ではない重要な事項であるからこれが認定についての説明を十分になすべきにもかかわらず、これを怠つてただ漫然と事実認定をしたのは違法であり、右の原判決の判示には理由不備の違法がある。

4 さらに、本件建物(二)、(三)の贈与につき、右の原判決の事実認定について所論の如き違法がないとしても、原判決が兼太郎の意思に基づき被上告人名義で表示登記及び保存登記がなされたとの事実により、これをもつて民法第五五〇条但書の履行が終つた場合に該当すると判示したのは、右条項の解釈適用を誤つたものである。すなわち民法第五五〇条但書にいう「履行が終つた」とは、贈与者が当該贈与契約により負担した債務の主要な部分を履行することを言うのであつて目的物が不動産の場合は、引渡あるいは登記をいうものとされているが、本件の如く贈与者(兼太郎)名義の保存登記を経由することなく受贈者(被上告人)自身が所有権を原始取得(建築)したものの如く装い、直接受贈者名義で表示登記保存登記がなされた場合は、その登記方法が仮に贈与者の指示によるものであつても、右方法による登記は受贈者が権利者として、単独申請でなすものであつて贈与者には何らの登記義務はないから、贈与者には当該贈与契約に基づく債務の履行としての登記義務の履行ということはあり得ないというべきである。このことは右保存登記がいわゆる中間省略登記として有効であるかどうかということとは無関係である。してみれば右の保存登記が兼太郎の意思に基づきなされたとの事実をもつて民法第五五〇条但書の履行が終つた場合に該当するとした原判示は右条項の適用解釈を誤つたものであり、被上告人は他に右同条項但書に該当する事実つまり本件建物(二)(三)の引渡を受けた事実を何ら主張しておらないから、右条項の適用解釈の誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかである。

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